辺境の地にいると、「世の中」との乖離を、実際の距離としても、価値観の距離としても感じることがあります。
このズレた感覚は何か大事なものだと思うし、まだ見ぬ誰かと共有したいとも思いました。
表出しているものを観察し、文脈を探り、二百年先からいまを振り返ると、目の前にある物事は違った様相を見せます。
価値観が崩壊し、再生することは、とてもおもしろく、真っ当な人間の営みだと思います。
私たちは、この暮らしの中で気づいたそのようなことを、本という形に残し、誰かに手渡してみたいと思いました。
農家が種をまき、育て、収穫し、出荷するように。
私たちは、言葉を紡ぎ、本を作り、送り出します。
或いは、本は、種でもあるでしょう。育て収穫するのは私たちではなく、受け取った誰かです。
この山里、色川から、川を下って、町へ、誰かのもとへ。
作るだけでなく、手渡すところまで。
そんな気持ちを込めて「出帆」室と名付けました。
本を携えて、私たちは出かけていきます。